修了者の声
VOICE OF ALUMNI

修了者からのメッセージ

写真 氏名:有澤 和毅
入学年:2012年
修了年月:2014年3月
現在の職種:弁護士(富山県弁護士会)

はじめに

 私は、金沢大学の法科大学院を修了し、現在、弁護士として仕事をしている。
 私は、高校の頃から、漠然と法曹を目指してはいたが、法曹がどのような仕事をしているのか、どのように勉強をすれば法曹になれるのかといった具体的なことに触れずに、大学生活の大半を費消した。もっと早い時期に、法曹に対する具体的なイメージをもっていれば、より有意義な時間の使い方も可能であったのではないかと今では考えている。
 本誌を手に取っている皆様の中にも、法曹という仕事に興味がある方や、漠然となりたいと考えている方もいらっしゃると思う。せっかく寄稿の機会をいただいたので、私が法曹になるまでの過程や、私の仕事内容を、少しだけご紹介し、司法試験までの過程や弁護士についてのイメージを掴んでいただき、皆様の進路の参考にしていただければと思う。

法科大学院入学まで

 私が、法曹を目指したのは、高校生の時だ。私は子供のころから、あるドラマが好きだった。そのドラマは、現実の警察組織と近い業務形態や実情を採用した作風となっており、警察機構を会社組織に置き換え、署内の権力争いや警視庁(本店)と所轄署(支店)の綱引きなどをテーマにしたものであった。私は主人公の現場の警察官ではなく、主人公を指揮する官僚組の警察官に憧れていた。当時の私は、捜査機関の権力に憧れていた。
 しかし、高校1年生のときに、事件は起こった。警察官僚になるには、国家公務員I種試験(当時の名称、現在は国家公務員総合職試験)を受ける必要がある。その試験をパスするには数学が必要と聞いたが、私は数学が致命的にできなかったのだ。このため、私は警察官僚になるという夢をあっさり諦めた。結局、捜査(機関への権力)への憧れを捨てきれず、捜査を指揮することができる検察官を目指すこととし、大学進学の際には、法学部を選択した。

大学での生活

 上記の経緯で、大学の法学部に入るが、私は、サークルにも入らず、部屋で友人と交流を深め続けた(有り体にいえば遊び惚けていた)。
 しかし、大学3回生の際、最も仲の良かった友人(今でも人生の目標であり、私にとっての師である)が、自分と遊んだ後に図書館でしっかり勉強していることに衝撃を受け、私も3回生後半ぐらいから、法科大学院に入るための勉強を始めた。その友人が、法科大学院を目指すと言わなければ、今の私はなかっただろう。その友人に追いつこうと勉強したところ、金沢大学法科大学院に合格することができた。

法科大学院入学後

 入学後は、すでに司法試験の答案作成の練習を始めている同期たちの積極的な姿勢に驚いた。金沢大学法科大学院では、自習室と、自分の席を与えられる。同期たちは、授業が終わった後も、帰宅せず、予習や司法試験にむけて勉強に励んでいた。
 私はというと、授業が終わった後、自習室に荷物を置き、すぐに帰宅していたが、私が帰った後も、自習室に残って勉強に励む同期の姿はまぶしかった。そんな同期たちの姿をみるうちに、私も自習室で勉強をするようになった(帰宅時間は相変わらず早かったが)。やる気にあふれた同期に囲まれて勉強できたため、自分のやる気も持続した。また、自習室や図書館が24時間利用可能なため、好きな時間に勉強できる点が非常に有難かった。
 また、私は人より、答案練習を始めるのが遅かったため、卒業まであと1年となった段階でも、全く答案練習をしていない苦手科目があった(司法試験においては選択法も含めて7法の試験科目があるがこのうち3科目が答案練習は手つかずだった)。私は、自分の苦手科目を克服するべく、教員の部屋を訪ねて、答案を見てもらいたいと頼んだ。私を1年程度で、司法試験で戦えるレベルに鍛えてくれとお願いしたところ、嫌な顔もせずに、週に2回も3回も添削に付き合ってくれた。
 これは教員と学生の距離が近い金沢大学法科大学院だから可能なことであって、学生の数が多いところでは、教員の時間を一人の学生が長期間独占することは困難であったことだろう。
 そんなこんなで、多くの人々の力を借り、法科大学院修了後の司法試験において、無事、合格することができた。

以上の経緯から伝えたいこと

 私が司法試験に合格した経緯は上記の通りであり、私は、私一人の力で合格したわけではない。大学時には、公私ともに私にいろいろなことを教えてくれた友人が、大学自体においては、同期の友人や教員が、私を司法試験に合格できるレベルまで、引っ張ってくれた。
 少しでも司法試験を目指したいと考えている人がいれば、同じ思いをもつ友人や教員に相談してみるといいだろう。時には、知らない人間の輪に入って、仲間を探す努力も必要かもしれない。
 私は、昔から、「仲間?そんなものは幻想だ。」という思春期を拗らせた考え方をしていた。そんな私が言うのであるから、信頼できる友人、仲間、及び師を見つけることの重要性や、そのような人々と会える環境を見つけ出すことの重要性は理解してもらえると思う。是非、自分をレベルアップさせてくれる友人や、環境を見つけてほしい。

司法試験合格後

 残りの頁で、私が司法試験合格後、弁護士になった経緯等を簡単に紹介する。司法試験に合格した後は、裁判所、検察庁、弁護士事務所を順番に巡り、実務研修を受けることができる。その際、私は、今、自分が勤めている事務所の所長弁護士の指導を受け、弁護士という仕事の魅力に触れることができた。
 私の所属する事務所は、金銭の貸付けや賃貸借契約終了に伴う部屋の明渡し等の一般民事、離婚や遺産の家事事件、破産事件、労働事件(雇用者側も労働者側もある)及び刑事事件等々とにかく雑多に依頼が舞い込む。
 事件の数だけ人がいて、その人たちは大なり小なり困っている(たいていはとても困っている)。そのような人々に寄り添い、依頼者に感謝されている指導担当弁護士の姿をみて、憧れた。やりがいがあって楽しそうだと強く思った。

弁護士になった後

 テレビやドラマのように、法廷で華々しく熱弁をふるうことは滅多にない。主な業務は、依頼者に代わり、法的な主張を行う書面を作成し、裁判所に提出することである。
 膨大な資料をまとめて、裁判所にわかるように証拠化し、事実を立証する仕事は、根気がいるし、投げ出したくなることも多々ある。だが、そのような地道な作業を経て、依頼者の利益を守れた時は、充実感と達成感を得ることができる。
 私は、上述した通り、昔は権力に憧れて、人のために仕事をするといった発想をそもそも持たない人間であった。しかし、弁護士修習において、今のボスの指導を受け、短いながらも一緒に仕事をさせてもらい、価値観が一変した。
 私は今、仕事にやりがいを感じ、楽しく生きている。
 法的な知識を使って、人の役に立ちたいと考えている人は、司法試験合格、そして法曹になることを是非目指してみてほしい。責任は大きいが、その分、やりがいのある仕事をすることができるだろう。